建設業界に迫る「2024年問題」への対応策:全員参加型建設DXが鍵
建設ITジャーナリストの家入龍太氏が「2024年問題解決と働き方改革を両立する全員参加型建設DXの進め方」と題した講演を行った。家入氏は、建設業界が直面する人手不足と働き方改革の課題に対して、DXの導入が不可欠であると強調した。
家入氏は、効率的な働き方改革を実現するための具体的な事例を紹介した。例えば、クラウドとタブレットを活用した施工管理システムを導入することで、これまで夜間に行っていた書類作成や写真整理を昼間にシフトする「昼間シフト」を提案した。また、工事の工程を十数倍に細分化することで、施工サイクルを高速化する「工程細分化」も有効な手法として挙げた。
さらに、「超人化」として、作業員にIT機器を装着させることで作業効率を高める取り組みも紹介された。具体例としては、AR(拡張現実)技術を用いた出来形管理や、電動キックボードを活用した現場内の移動の高速化が挙げられた。これにより、作業時間を大幅に短縮することが可能になるという。
ロボットやAIの導入による「ロボット・AI化」も家入氏が強調する重要な戦略の一つである。自走式の墨出しロボット「SumiROBO」や、鉄筋結束ロボット「トモロボ」などが、現場での作業を効率化し、労働者の負担を軽減する具体例として紹介された。
講演の最後に、家入氏は「全員参加型建設DX」の重要性を強調。経営者から現場の作業員まで全員がDXに参加し、効率的な働き方を実現することが、2024年問題を乗り越えるための鍵であると述べた。家入氏の提案するDX戦略は、建設業界全体にとって今後の持続可能な成長を支える重要な要素となるだろう。
金杉建設が推進する建設DXと働き方改革
金杉建設株式会社の代表取締役社長である吉川祐介氏が、「2024年問題」への対応策として、建設業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)と働き方改革の重要性を語った。
吉川氏の講演では、特に建設業の生産性向上を目指す「i-Construction」や、ICT技術を用いた業務の効率化が焦点となった。例えば、金杉建設では、3D測量技術を積極的に取り入れ、現場のデータ収集と分析を迅速化する取り組みを行っている。これにより、従来の手作業による測量作業が大幅に短縮され、正確なデータを基にした迅速な意思決定が可能となった。また、3Dデータを用いた現場検討により、潜在的なトラブルを事前に発見し、未然に防ぐことができるようになったという。
さらに、吉川氏は、建設機械のDX化により、生産性の向上と労働環境の改善を図ることを推奨した。具体的には、建設機械に3D設計データをインプットし、作業装置を自動制御する技術を導入することで、現場監督業務の効率化が実現される。また、「チルトローテータ」と呼ばれる機能を搭載した建設機械の導入により、掘削性能の向上や作業時間の短縮が可能となり、労働力の削減と安全性の向上が図られている。
金杉建設では、ICT技術を内製化することで、コスト削減とスピードアップを実現している。これにより、現場の状況に即した柔軟な対応が可能となり、作業全体の効率が飛躍的に向上した。また、同社は、従来の労働習慣を見直し、バックオフィス業務の効率化を進めることで、働き方改革にも積極的に取り組んでいる。
吉川氏は講演の最後に、会社全体が「上向きマインド」で取り組むことが重要であると述べ、経営者自らがリーダーシップを発揮し、DXの導入を推進する姿勢を示した。金杉建設の取り組みは、2024年問題を乗り越えるための一つのモデルケースとして、他の企業にとっても参考になるだろう。
地方建設業とスタートアップの共創が生み出す新たな価値:ON-SITE Xの取り組み
加和太建設株式会社が主導する建設DXコミュニティ「ON-SITE X」の活動が注目を集めている。ON-SITE Xは、全国の地方建設業者とスタートアップ企業が連携し、建設業界の課題解決と新たな価値創造を目指す取り組みである。
加和太建設は、静岡県三島市を拠点とし、建設業だけでなく不動産開発や施設運営など多岐にわたる事業を展開する企業である。同社は、地方建設業の革新を目指し、2022年に静岡県内の建設会社3社でON-SITE Xを設立。以来、全国47都道府県の108社が参画するまでに成長し、参加企業の売上高は合計で約9,720億円に達している。
ON-SITE Xの活動は、定期的な情報配信やオンラインイベントを通じてスタートアップ企業との連携を促進するほか、実際の建設現場での視察や実証実験を行うことで、最新技術の現場適用を図っている。例えば、建設用3Dプリンターを用いた現場での構造物製作や、作業支援ロボットによる省力化などが実施され、現場の効率化と生産性向上に寄与している。
また、ON-SITE Xは、現場技術者同士の交流を通じて、知見の共有や課題解決に向けたディスカッションを促進。これにより、自社だけでは解決が難しい課題も、スタートアップとの共創を通じてクリアすることが可能となる。こうした活動は、単なる技術導入にとどまらず、業界全体の成長と地方からの日本再生に寄与することを目指している。
加和太建設の取り組みは、地方建設業の新しい可能性を切り開き、業界全体に革新をもたらすモデルケースとして注目されている。ON-SITE Xを通じて、地方建設業者が中心となり、スタートアップ企業と共に業界の課題に挑む姿勢が、今後の日本の建設業界における持続的な成長を支える鍵となるだろう。
<協賛企業>株式会社インフォマート/株式会社セールスフォース・ジャパン/株式会社アンドパッド/アステリア株式会社/ジョーシス株式会社