エンゲージメント向上とリテンション管理:企業の成長を支えるカギ
青山学院大学経営学部の山本寛教授が「若手・優秀人材が辞めにくい組織」について講演。働きがいとエンゲージメントの重要性、そして効果的なリテンション戦略について具体的な事例を交えながら解説しました。
エンゲージメントの重要性
山本教授は、エンゲージメントとは従業員が自身の成長と会社の成長を結びつけ、自発的に力を発揮しようとする意欲を指すと定義しました。これは単なるモチベーションを超えたもので、企業の高業績に直結します。日本のエンゲージメント状況について、ギャラップ社の調査結果を引用し、全体的に低いことを指摘しました。日本では「熱意あふれる社員」の割合がわずか5%で、世界平均の23%に大きく劣っており、これは企業の成長を阻害する大きな要因となっています。
小松製作所の例では、管理職層に対して信頼、モチベーション、変化、チームワーク、権限委譲を効果的に高める研修を実施し、エンゲージメントが半年で33%から70%に向上したという成果が紹介されました。これは上司の役割がいかに重要かを物語る事例です。
リテンション(定着)管理の重要性
続いて、山本教授はリテンションの重要性について触れました。リテンションとは、優秀な人材が長期間にわたって組織にとどまり、その能力を最大限に発揮できるようにするための管理施策です。これは現代の人材獲得競争の激しい時代において、企業の持続的な成長を支える重要な要素です。山本教授は、企業がリテンションを向上させる方策として「社内コミュニケーションの活性化」を紹介。そのポイントとして上司、同僚といったタテ、ヨコのコミュニケーションはもちろん、社内イベントなどを通じたナナメのコミュニケーションも重要であると事例を交えて解説しました。
山本教授は、従業員が働きがいを感じ、エンゲージメントが高まることで、企業は持続的な成長を遂げることを強調しました。そして、「成長」を重視する若手人材が成長を実感し、先輩を見て将来成長するだろうという「成長予感」を感じることが、人材の定着につながると語りました。
エンゲージメントの過剰流行と地に足ついた施策:坂井風太氏が警鐘
Momentorの代表取締役、坂井風太氏が「エンゲージメントの過剰流行と徒手空拳」と題して講演。エンゲージメント向上の過剰な流行と、それに対する冷静な視点が述べられました。坂井氏は、エンゲージメント向上の取り組みが実際に職場を改善しているのかを問い、地に足のついた施策の重要性を強調しました。
エンゲージメント向上の現状と問題点
近年、エンゲージメント向上がブームとなっていますが、坂井氏はその効果に疑問を呈しています。ギャラップ社の調査によると、日本の「熱意あふれる社員」の割合はわずか5%で、139カ国中132位という低い水準にあります。しかし、エンゲージメントの定義が曖昧であることも問題であり、エンゲージメントは事業者や提唱者によって異なる定義がされており、その恣意性が指摘されています。また、日本人特有の「感情抑制バイアス」が測定精度を低下させている可能性や日本の雇用慣行との乖離があり、米国や欧州の基準で評価することに無理があると坂井氏は述べています。
効果的なエンゲージメント向上策とは
エンゲージメント向上策を実行するには、具体的かつ現実的な施策が必要です。坂井氏は、場当たり的な施策ではなく、理論に基づいた具体的な行動が求められると強調しました。例えば、現場マネージャーが過剰な負荷に耐えながらエンゲージメント向上を図るのではなく、従業員全体が理論を理解し、自己効力感を高めることで効果を発揮する方法が提案されました。
坂井氏は、「地上戦施策」と呼ばれる、現場に根ざした具体的な取り組みの重要性を訴えました。例えば、評価制度や1on1制度、組織サーベイの導入だけではなく、それらが実際に現場でどのように機能するかを見極め、適切なフィードバックと改善を行うことが必要だと強調しました。エンゲージメントを本当に高めるためには、理論と実践知に基づいた具体的な施策が不可欠であり、組織全体がエンゲージメントの意味を理解し、自律的に行動できる環境を整えることで、持続的な成長が期待できると語りました。
<協賛企業>株式会社カオナビ/株式会社プラスアルファ・コンサルティング/株式会社リーティングマーク/株式会社SmartHR