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インタビュー

事例紹介
RESPECTion!(リスペクション)

アスリートが安心して競技に専念できる社会を目指すプロジェクト「RESPECTion!(リスペクション)」がスタート!

―アスリートへの誹謗中傷やハラスメントの根絶、全ての人が尊重される社会の実現へ―
RESPECTion!推進委員会事務局の青山綾里氏(左)と角かずみ氏

アスリートに対するSNSでの誹謗中傷、写真や動画による性的ハラスメントが深刻化する中、選手が安心して競技に専念できる社会を目指すプロジェクト「RESPECTion!」が始動しました。RESPECT(尊敬)とACTION(行動)を組み合わせた造語で、アスリートへの尊敬の念を行動につなげようとの思いが込められています。社会的な価値をともなうアスリート支援に協賛する企業も出てきています。事務局を務める産経新聞社の青山綾里氏と、角かずみ氏が、RESPECTion!の現状と未来を語りました。

自民党本部で文田さん、樋口さんらが講演

5月11日、東京・永田町の自民党本部で情報通信戦略調査会の会合が開かれ、インターネット上に氾濫する誹謗中傷などの対策について議論されました。山下貴司元法相は「匿名をいいことに誹謗中傷が投げかけられ、是正する十分な手段がないのが現状だ」と指摘し「命にかかわる問題」と発言しました。ともに2024年パリ五輪レスリング金メダリストでRESPECTion!アスリートでもある文田健一郎さん、樋口黎さんがゲストスピーカーを務めたほか、スポーツを巡る誹謗中傷の根絶を目指す団体「COAS(コアス)」代表でRESPECTion!推進委員も務める高橋駿弁護士も参加。文田さんはコロナ禍で開催された21年東京五輪の直前に「出場辞退しないなら非国民だ」などと誹謗中傷が殺到したエピソードを紹介。樋口さんはSNSでのコメントなどについて「“石”を投げる方が有利な状況」などと根本的な解決策を訴えました。会合には総務省などの関係省庁の担当者らも出席し、将来的な法改正の必要性などついて、活発な意見交換が行われました。

自民党の会合であいさつする山下貴司元法相(奥左端)と出席した(奥右端から)レスリングの文田健一郎さんと樋口黎さん

プラスをつくり、スポーツ界から社会全体を変えていく

角かずみ氏

アスリートに対するSNSでの誹謗中傷などが近年問題となる中、新しい応援文化の醸成と選手が安心して競技に打ち込める環境づくりを目指すプロジェクト「RESPECTion!」が3月26日に発足。同推進委員会の共同代表を担う青山学院大陸上部長距離ブロック監督の原晋氏らが東京都内で会見を開きました。原氏はスポーツ界から社会全体を変えていくという目標に向けてアスリートと団体・企業、メディアが三位一体で取り組みを始めたことについて「画期的なスタート」と表現。スポーツ庁、日本経済団体連合会、関西経済連合会の後援もいただき、船出を迎えることになりました。

RESPECTion!宣言から2カ月。2007年に入社し、プロ野球や水泳、レスリングなどの五輪競技をはじめ、さまざまなジャンルを取材している角氏は「プロジェクトがどんどん大きくなっている」と実感しています。角氏は3歳から競泳、小学2年生から大学卒業までシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)の経験があります。角氏が事務局に入り、RESPECTion!アスリートに文田さん、樋口さん、体操の杉原愛子さん、カヌーの羽根田卓也さん、バドミントンの奥原希望さんが就任。その後、RESPECTion!アンバサダーとしてレスリングの登坂絵莉さん、土性沙羅さん、バドミントンの高橋礼華さん、競泳の星奈津美さん、体操の寺本明日香さんらが参加するなど、活動の裾野が日々広がっています。

事務局にはスポーツ界から社会全体へ波及するムーブメントにしたいという思いがあります。誹謗中傷の抑止やスポハラ根絶だけではありません。アスリートをRESPECTしやすい環境や、応援の力をアスリートに届ける機会をRESPECTion!は創出していきます。10月には子供向けのスポーツ大会やシンポジウムを開催予定です。また、アスリートの努力の跡や素顔に触れられる写真をRESPECTion!公式SNSで発信しています。各企業や団体と一緒に取り組むことにより、より多くのアスリートを応援するアクションを増やすことができ、マイナスをゼロにするだけではなく、プラスをつくる環境をより多くつくることができます。

加害者=若年層とは言い切れない

誹謗中傷問題や写真や動画による性的ハラスメントについて、競泳バタフライで1996年のアトランタ五輪に14歳で出場した青山氏は「アスリートの率直な思いを聞くと、本当にいろいろな思いや考えを抱きながら競技に立ち向かっているということを痛感します。声を上げたくても上げられない。そんな状況が続いていたと思います」と言います。青山氏も被害者の一人。「当時の水着はハイレグデザインでした。

青山綾里氏

結構、透けているのもあったし、色も黒ではなく、派手だったり。女性競泳選手ならではの問題でした」。現役として活動していた頃は今のような情報社会からはほど遠く、スマートフォンもありません。際どい写真ばかり集めた週刊誌への流出がメインでした。青山氏は「私自身はそういう雑誌を見なかったですが、周りの方から載っているという話を聞いて、すごく嫌な思いをしました」と述懐します。

SNSが発展し、性的な動画が拡散され、AI加工の技術も向上した今となっては真偽不明な画像も数多く出回っています。角氏は加害者の年齢について「若い人が多いとは言い切れません。炎上に加担した人の属性として男性、子供と同居している人、個人年収や世帯年収の多い人などを挙げた論文もあります。たとえば仕事でストレスがたまっていて、家庭では発散できないし…というところで投稿してしまうのかもしれない」と語ります。

誹謗中傷が精神力を鍛える?

SNSの正しい使い方を学ぶ機会もなかった世代が初心者マークをつけたまま投稿を続けます。青山氏は「自分の意見を発信する場所があるのはいいこと」とプラットフォームの意義を認めながらも「使い方によっては自分の言葉で他人を傷つけてしまう。相手が傷ついていることを知らないままストレス発散で投稿して、反応があればうれしくなって、また次も投稿する。それでどんどん世の中に広がっているのかもしれない」と悪循環に陥る危険性を語ります。アスリートがサンドバッグ状態になりながら、誹謗中傷を浴びても耐えるしかないのが現実です。それに耐えてこそ、精神力が磨かれるのでしょうか。

角氏と青山氏はともに「誹謗中傷はいらない」と首を振ります。「素直に応援してくれる方が力になると思います。やはり選手も人間なので、何を言われても平気というわけでは絶対にない」と青山氏は話します。今年2月のミラノ・コルティナ冬季五輪ではフィギュアスケート男子のイリア・マリニン選手(米国)がショートプログラム首位で迎えたフリーで失速し、8位に終わりました。自身のインスタグラムに「卑劣なオンラインの憎悪は心を攻撃し、その恐怖は闇へ引き込む」などと投稿し、試合で歓喜する姿と座って頭を抱えるシーンを交ぜた映像も織り交ぜ「強く見える人も、内面には見えない葛藤を抱えているかもしれない」と誹謗中傷被害を示唆しました。青山氏は「競技生活に影響が出る選手も絶対に出ているし、実際に試合前後に誹謗中傷を見て、精神的な動揺を背負ってしまったことで最大のパフォーマンスができずに終わってしまうというケースもある。現役引退に追い込まれた選手もいる。アスリートだから何を言っても大丈夫というのは間違っています」と語気を強めます。

記者発表会でフォトセッションに応じる(左から)元柔道選手の谷本歩実さん、早稲田大の松本泰介教授、青山学院大・原晋監督、レスリング選手の文田健一郎さん

「言葉の刃」に耐えた過去

青山氏は誹謗中傷について「言葉の刃」だと言います。結果で周囲から評価される世界であることは理解していますが、それがすべてではなく、人格まで否定される必要はありません。「刃」に立ち向かった結果、さらに炎上してしまう可能性を考えると、多くの人が「耐える」という選択をしてしまいます。「もっと競技をやりたいと思っている子の芽を摘んでしまうパターンもあります」と青山氏。RESPECTion!がアスリートの声を上げるチャンスを広げ、誹謗中傷は時代遅れだという認識を生み出す。プロジェクトを中長期的に運営すべき理由がそこにあります。

青山氏は現役時代、「言葉」に勇気づけられました。「スイミングの寮に大量のファクスが届きました。これだけ応援してくれているんだというのはすごく励みになり、応援は本当に選手の心に真っすぐ届く」と実感したといいます。

3月27日付産経新聞1面

選手と一緒に戦う文化へ

RESPECTion!の未来予想図は…。青山氏、角氏がともに語ったのは社会の変化でした。

青山氏「その一瞬一瞬に込められたアスリートの真剣な姿は、私たちに感動と勇気を与えます。スポーツは才能ある人のための祭典ではなく、すべての人が前向きに、自分の人生を肯定し豊かにするためのツールとして、みんなが尊重される未来をスポーツ、そしてRESPECTion!からつくりだしていければと思っています」

角氏「相手の気持ちになって考えることができれば誹謗中傷や盗撮、画像の加工といった問題は減っていくのではないかと考えます。RESPECTion!を通じて、スポーツ界から社会全体へ、相手の気持ちになって物事を考えられる人が増えて、生きやすい社会になっていたら、プロジェクトを立ち上げた意義があると思います」

6月のサッカーW杯、9月のアジア大会など、2026年は世界的なスポーツの大会が多く予定されています。時代とともに、アスリートは「雲の上の存在」から「身近な応援対象」へと変化しています。勝てばともに喜び、負ければともに悔しがるのが、本来のあるべき姿です。価値観が変われば行動が変わり、選手と一緒に戦うという文化が醸成されます。RESPECTion!はまだ序章に過ぎませんが、着実に社会全体を動かしています。誹謗中傷対策や人権への配慮、健全な応援スタイルを、アスリートを支援する企業と一緒に作り上げていきます。RESPECTion!をともに大きなムーブメントとして成長させていくことは、スポーツを愛する人の心を必ず豊かにすることでしょう。

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