
産経新聞社主催のオンラインセミナー「AI時代を生き抜く経理業務DX~紙からデジタル、手探りからAI活用へ~」が開催され、激変するビジネス環境における経理部門の変革の方向性が示されました。本セミナーでは、基調講演と特別講演を通じて、経理業務の現状課題とAIを活用した未来像について深く掘り下げられました。
DXで変革する経理部門の働き方改革と付加価値創造
CSアカウンティング株式会社の代表取締役社長で公認会計士・税理士の中尾篤史氏は、約2700社を超える企業支援実績に基づき、経理部門のDX推進による働き方改革と付加価値創出について講演しました。
中尾氏は、経理部門が変革を求められる背景として、少子高齢化による労働力減少、日本の低い生産性(OECD38カ国中30位、時間当たり生産性約52ドルと米国の約6割)、AIによる仕事自動化への懸念、業務の属人化、そしてインボイス制度や電子帳簿保存法、ESG対応など法改正に伴う業務増加を挙げました。これらの課題に対し、DX活用が労働時間の圧縮、生産性向上、業務品質の安定化、属人化からの脱却に不可欠であると強調しました。
DXの具体的な効果として、入力業務の削減、ペーパーレス化によるリモートワーク対応、クラウドサービスを通じたAPI連携とExcel依存の脱却、AI-OCRやRPAによる定型業務自動化を説明しました。特に経費精算、支払い、請求書発行、債権管理といった業務で劇的な改善が見られるとしています。また、定型的なノンコア業務を外部リソース(BPO)に委託することで、コア業務(予算策定、M&A戦略、ESG対応など)への集中が可能となり、「魅力ある、求められる経理部門」への変革が図れると締めくくりました。

財務経理領域における生成AI活用のポイントとユースケース
有限責任あずさ監査法人アドバイザリー統括事業部ディレクターの生田武則氏は、「財務経理における生成AI活用」をテーマに講演しました。KPMG JAPANのCFOサーベイによると、日本企業の69%が経理・財務領域で生成AIを利用または利用予定であり、文書の生成・翻訳、処理自動化、対話形式の情報検索が主な活用業務として挙げられました。一方で、「必要なスキル・人材の不足」と「全社的な活用戦略の未構築」が活用上の主要課題であることが浮き彫りになりました。
生田氏は、生成AIの発展を3段階(社内専門生成AIの利用、AIと他技術の組み合わせ、生成AIが業務インターフェースとなる世界)で捉え、以下の5つの領域で業務活用が可能だと述べました。
・コミュニケーション(対話形式での情報やり取り)
・文書の要約・生成(議事録作成、翻訳など)
・判断の自動化(会計処理の判定、リース判定など)
・処理の自動化(定量的・定性的データを含めた処理自動化)
・分析の支援・予測(経営データ分析など)

具体的なユースケースとして、経理業務の問い合わせ対応(AIが根拠と共に回答)、実質リース判定(契約書分析によるリース該当性判定)、決済書分析(会計・税務論点のAI抽出、KPMG特許技術活用)を紹介。導入アプローチでは、まずはChatGPTやCopilotの試用で可能性を理解し、問い合わせ対応などハードルの低い業務からスモールスタートするよう推奨しました。セキュリティリスク対応には、セキュアな社内環境構築と社内ルール整備の重要性を指摘しました。
生田氏は、生成AIの性能向上は日進月歩であり、「経理財務ナレッジマネジメント」がAI活用に必要なデータ基盤整備に繋がり、組織の暗黙知を形式知化し、人材育成やコンプライアンス強化にも繋がると強調しました。最終的に、AIエージェントを介して専門AIが連携し、人間が「人間しかできない業務」に集中できる未来像を示唆しました。
<特別協賛>株式会社コンカー<協賛>株式会社マネーフォワード/オリックス株式会社
